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夏の余韻、秋のはじまりを北陸で味わう

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日本の地方には、旅人がまだ知らない豊かさがあります。
山と海が近く、自然と暮らしが密接につながる土地では、食は単なる料理ではなく、風土そのものを映す存在です。北陸の各地で出会った一皿一皿は、そうした土地の記憶を、静かに語りかけてくれました。
ここからは、土地と食が結びついた北陸らしい食を提供している、素晴らしいお店をご紹介します。
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山の水が育てた、確かな旨み あまごの宿(福井)
勝山の恐竜博物館近くの山あいをしばらく進み、川のせせらぎがすぐそばに感じられる場所に、「あまごの宿」はあります。山に囲まれた静かな環境と、澄んだ水が、この土地ならではの時間の流れをつくり出しています。
この宿の食事を支えているのは、山間の清らかな水を生かした養殖です。ここでは、伝統的な川魚に加え、サーモンも同じ水環境で育てられています。水質や水温、餌にまで細やかに気を配りながら育てることで、魚の身は澄み、くせのない、やさしい味わいに仕上がります。自然と人の手が調和することで、この場所ならではの食材が生まれています。
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炭火で焼かれる川魚は、香りをまとうことで皮は香ばしく、身はふっくらとやわらかです。淡い色合いが美しい刺身は、口に運ぶと、山の水を思わせる清らかな旨みが静かに広がります。天ぷらでは、軽い衣が身の繊細さを包み込み、揚げたてならではの心地よい食感が印象に残ります。
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そして、この宿を象徴する一杯が「あまたま丼」です。白いご飯の上に、黄金色に輝くあまごの卵がたっぷりと盛られ、その粒一つひとつが光を含んでいるように見えます。中央に添えられた薬味が彩りを添え、器の中に静かな美しさが完成しています。この丼は、魚を育て、料理しているこの場所だからこそ味わえる特別な一品です。卵は口の中でやさしくほどけ、川魚の旨みとご飯が自然に重なり合います。
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昼の時間帯に気軽に立ち寄り、山や川の恵みを味わえるのも魅力のひとつです。
山間の水と人の手によって育まれた一膳は、福井の自然と食文化を、静かに、そして深く感じさせてくれます。
あまごの宿
住所
〒911-0017 福井県勝山市野向町横倉56-35
昼:11:00〜14:00頃
アクセス
車:中部縦貫自動車道「勝山IC」から約30分
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食材の背景とともにいただく一皿一皿 レゾンス(福井)
レゾンスの食卓には、福井の土地が育んできた食材が、静かな存在感で並びます。
淡い色合いの器に盛られたお肉料理は、表面にほどよい焼き色をまといながら、身はしっとりとやわらかく、口に運ぶと自然な旨みがゆっくりと広がります。地元の地がらしを使ったソースが全体を包み込み、添えられた野菜の香りで、味に軽やかな奥行きを与えています。
料理が運ばれた際には、シェフの丁寧な説明があります。
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どの海や畑で育った食材なのか、どのような生産者が関わっているのか。説明は簡潔ですが、食材だけでなく、それを育ててきた人への敬意が、言葉の端々から感じられます。背景を知ったうえで味わうことで、料理はより立体的になり、一皿ごとの印象が深まっていきます。
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器やカトラリー、テーブルを形づくる木材に至るまで、食事を取り巻くものは越前・若狭のものが使われています。陶の質感、木の温もり、金属の控えめな光沢が、料理の温度や香りを自然に引き立て、空間全体が食体験の一部として整えられています。

前菜では、県内の海で育った魚介が、透明感のあるガラスの器に美しく盛り付けられています。瑞々しい身の食感と、白いソースの穏やかなコク、野草のほのかな苦味が重なり合い、海と山の距離が近いこの地域ならではの食の風景が自然に浮かび上がります。味わいは明確でありながら、主張しすぎることはなく、素材の輪郭が静かに伝わってきます。
地元の野菜を使った一皿も印象的です。焙煎された麦に囲まれるように、小さな料理が置かれ、立ち上る香ばしさとともに、ひと口分の滋味が凝縮されています。装飾的な演出ではなく、素材そのものが持つ背景や力を、正面から伝える構成です。
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レゾンスでの食事は、単にフランス料理を味わう時間ではありません。
福井の風土を背景に、海と山が近いこの地域で育まれてきた食材、生産者、そして料理の考え方を、ひとつの流れとして体感できます。
ここは、越前・若狭という土地のガストロノミーを、静かに、そして深く味わうことができる場所です。
レゾンス
住所
〒910-0837 福井県福井市高柳1-712
営業時間
ランチ:12:00〜15:00
ディナー:18:30〜21:30
アクセス
車:北陸自動車道「福井北IC」から約15分
バス:京福バス「藤島園」バス停から徒歩約8分
鉄道:えちぜん鉄道「越前新保駅」より徒歩約15〜18分
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清らかな水にほどける、参道の一杯 大岩のそうめん(富山)
富山県上市町。大岩山日石寺の参道沿いに建つ、老舗旅館であり食事処でもある「旅館だんごや」は、参拝を終えた人々が自然と立ち寄る場所です。明治二十三年(西暦1890年)創業。宿として、また食事の場として、参拝者の暮らしに寄り添いながら、長い時間ここにあり続けてきました。
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建物に入ると、木の温もりを残した素朴な空間が広がります。過剰な演出を施さず、時間の積み重ねがそのまま息づくしつらえが、障子越しに差し込むやわらかな光とともに、参拝後の気持ちを静かに受け止めてくれます。こうした場所で、特別なことをせず、季節の移ろいを感じながら食事をする時間が、この土地では大切にされてきました。
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ここで供されるそうめんは、春から夏にかけて味わえるものです。創業以来、この家の手で受け継がれてきた製法で作られ、三年間寝かせて熟成させた最上級の麺が使われています。大岩の冷たい水にさらされた麺は、しっかりとしたコシと、つるりとした喉ごしが特徴です。
器に盛られた白い麺は、澄んだつゆに静かに浸され、見た目はとてもシンプルです。箸を入れると麺はすっとほどけ、口に運ぶと、水のやわらかさと小麦のほのかな甘みが穏やかに広がります。その味わいからは、七十年以上変わることなく受け継がれてきた製法と、この土地で積み重ねられてきた時間が静かに伝わってきます。強い味付けはなく、素材そのものの味が、暑さを迎える体に心地よくなじんでいくように感じられます。
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参拝のあと、暑い季節にぜひ味わいたいこのそうめんは、日本の人々が季節と向き合いながら暮らしてきた、静かで豊かな日常の一場面です。派手さはありませんが、時間を重ねてきた味わいが、旅の記憶としてやさしく心に残ります。
旅館だんごや(大岩そうめん)
住所
〒930-0463 富山県中新川郡上市町大岩32
営業時間(食事)
11:00〜15:00
※大岩そうめんの提供は主に春〜秋(季節営業)
アクセス
・富山地方鉄道「上市駅」からタクシーで約10分
・北陸自動車道「立山IC」から車で約15分
・大岩山日石寺 門前すぐ
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山の朝に整う、素朴な味わい 五箇山荘の朝ごはん(富山)
五箇山の朝は、とても静かで美しい時間から始まります。山間の集落をやわらかな光が包み込み、雲がゆっくりと流れ、澄んだ空気があたり一面に広がります。目覚めて窓を開けると、自然とともに暮らしてきた土地の日常が、そのままそこにあります。
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朝の温泉につかった後の朝食は、格別です。体が芯から温まったところに運ばれてくるのが、五箇山荘の朝ごはん。山の恵みを大切にした料理が、静かに一日の始まりを整えてくれます。
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なかでも印象に残るのが、五箇山豆腐です。五箇山豆腐は、一般的な豆腐よりも水分をしっかりと抜き、時間をかけて固められています。そのため、縄でしばっても形が崩れないほどの強さがあります。これは保存や運搬が難しかった山里で、雪深い冬を越え、食を守るための知恵から生まれたものです。かつては豆腐を縄で縛り、山道を歩いて運んだとも言われています。
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口に含むと、しっかりとした歯ごたえの中から、大豆の濃い甘みと旨みがゆっくりと広がります。冷涼な気候と清らかな水が、この土地ならではの味わいを育んできました。
山菜の小鉢や焼き魚、湯気の立つ味噌汁とともに味わう朝食は、料理そのものだけでなく、五箇山で受け継がれてきた暮らしの時間を感じさせてくれます。五箇山の朝は、静かで深い豊かさを教えてくれるひとときでした。
静寂の宿 五箇山温泉 五箇山荘
住所
〒939-1972 富山県南砺市西赤尾町3176-1
チェックイン(宿泊):15:00〜
チェックアウト(宿泊):〜10:00
アクセス
車:
 北陸自動車道「小矢部砺波JCT」から約40分
 東海北陸自動車道「五箇山IC」から約10分
公共交通:
 JR高岡駅またはJR富山駅からバス(五箇山・相倉方面行き)で約60〜90分
 ※最寄りバス停から徒歩数分
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ひと皿ごとに重なる、石川の味わい TILE(金沢)
夕暮れの金沢で、静かに佇む建物が目に留まります。
日が傾くにつれて、町家の輪郭がやわらかな光に包まれ、ガラス越しに灯る明かりが、自然と足を中へと導いてくれます。派手な演出はありませんが、時間の移ろいとともに、その美しさがゆっくりと浮かび上がってきます。
中に一歩入ると、空間は驚くほど落ち着いています。
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黒い梁や土壁の質感、畳のやさしい感触、木やガラス、金属といった素材が、静かに調和しています。古い建物が持つ時間の重なりに、現代の感覚がそっと添えられ、日本らしい美意識が空間全体に行き渡っています。
料理は、小さな箱膳と供に美しいガラスの器に丁寧に盛り付けられて運ばれてきます。
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一つひとつの料理は控えめな佇まいですが、色や形、配置には意味があり、まるで小さな作品のようです。地元の魚や野菜を使い、味付けはあくまで穏やか。素材そのものの味が、ゆっくりと口の中で広がっていきます。いくつもの味が重なり合いながらも、全体として不思議な一体感が感じられます。
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この場所に身を置いていると、日本では「急がず、整える」ことが大切にされていることに気づきます。
空間も料理も、強く主張することはありませんが、その分、心の中に静かな余韻が残ります。食事を終える頃には、気持ちまで整えられているように感じられます。
にぎやかさではなく、静かな心地よさを。
TILEは、金沢の美意識を、そっと体で感じられる場所です。
TILE
住所
〒920-0853 石川県金沢市本町 2-15-1
営業時間
ランチ:11:30〜14:30
ディナー:18:00〜22:00
アクセス
徒歩:JR金沢駅 徒歩約7〜10分
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素材と季節を表現する 加賀・山代「さえ季」
山代温泉は、開湯からおよそ1300年の歴史を持つ温泉地です。
古くから湯に浸かり、心と体を整えながら過ごす時間が大切にされてきました。その長い年月の中で、温泉とともに食の文化も静かに育まれてきた土地です。
その山代温泉で味わったのが、日本料理「さえ季」です。
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旬の食材を大切にしながら、伝統に寄り添いつつも、現代的な感覚をさりげなく取り入れた料理が供されます。店主は京都で修行を重ね、素材と向き合う姿勢を軸に、この地で料理を続けてきました。
おまかせのコースは、最初の一品から印象に残ります。
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低温調理や、食材に合わせて工夫されたソースの組み合わせによって、素材の持ち味がやわらかく引き出されています。蟹や季節の野菜を使った前菜では、味わいは軽やかでありながら、余韻が長く続きます。
炭火で焼かれた牛ヒレ肉は、丁寧な火入れが施され、肉の旨みを閉じ込めつつも重さを感じさせません。季節ごとに内容が変わる料理も多く、その時期ならではの加賀の恵みを、無理のないかたちで楽しむことができます。
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料理とともに楽しみたいのが、地酒の存在です。
加賀や北陸を中心とした日本酒が揃い、透明感のあるものから穏やかな旨みを持つものまで幅広く用意されています。料理の味を引き立てるように寄り添い、一口ごとに調和のよさが感じられます。ワインやシャンパンが選べるのも、食事の時間に広がりを与えてくれます。
落ち着いた雰囲気の中でいただく季節の食事は、気持ちをゆるめながら、ゆっくりと味わう時間そのものが魅力です。料理と酒が静かに寄り添い、旅の時間を深く印象づけてくれる一軒です。
さえ季
住所
〒922-0242
石川県加賀市山代温泉18-155-1
営業時間
夜:17:30〜21:30
アクセス
鉄道+バス:JR北陸本線 加賀温泉駅から、加賀周遊バス(山代温泉方面)で約15〜20分、下車すぐ
車:北陸自動車道 加賀ICから約10分

ー筆者ー
田谷良人(株式会社地方創生推進共創機構/JTA株式会社/北陸エリアマネージャー)
北陸を中心とした地域資源の発掘と海外発信を手がける。
観光・食・工芸など多様な分野を横断しながら、地域の魅力を海外に届けるプロジェクトに従事。
パーソナルのインスタグラムからも、北陸を発信中。

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