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海と大地、その深みを味わう北陸の冬

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北陸の冬を旅すると、料理の印象がとても深く残ります。
冷たい空気の中を歩き、店の暖簾をくぐると、そこには湯気の立つ料理や、この季節ならではの魚介が並んでいます。外の静かな雪景色とは対照的に、店の中には温かな時間が流れています。

日本海に面した北陸では、冬になると魚の味わいがぐっと深くなります。脂ののった魚、体を温めてくれる料理、長く親しまれてきた土地の味。そこに地元の酒が加わることで、楽しみはさらに広がります。
町ごとに受け継がれてきた味わいもさまざまです。港町の魚料理、城下町に残る素朴な味、職人の技を感じる一皿、料理に寄り添う酒。今回は、そうした時間を存分に楽しめるお店を紹介します。
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石川
黒百合で味わう、金沢おでん

石川を訪れたら、ぜひ味わいたいのが金沢おでんです。おでんは日本各地で親しまれてきた料理ですが、金沢では昭和初期(1934年ごろ)から食堂で広まり、この土地ならではの形へと育まれてきました。透き通っただしでじっくり煮込むやさしい味わいと、地域ならではの具材が特徴で、冬の金沢で長く親しまれてきた料理です。寒い季節になると、街のあちこちの店先から湯気が立ちのぼり、温かなだしの香りが漂います。
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そうした金沢おでんを旅の途中で気軽に味わえる店として知られているのが、季節料理 おでん 黒百合です。

この店は1953年創業の老舗で、金沢駅直結の商業施設「金沢百番街あんと」の中にあります。昼も夜も金沢おでんを楽しめるため、旅の途中に立ち寄りやすい一軒です。70年以上受け継がれてきただしで煮込まれたおでんは、地元の人にも旅行者にも長く親しまれてきました。店内には常に大きな鍋が置かれ、具材がゆっくりと煮込まれています。
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まず印象に残るのが車麩(くるまふ)。大きな輪の形をした麩がだしをたっぷり吸い込み、口に含むとじゅわっと旨味が広がります。軽やかな食感でありながら、だしの味をしっかりと感じられる一品です。

もう一つの具材がバイ貝。殻付きのまま煮込まれており、つまようじで身を引き出すと、やわらかな食感とともに海の香りが広がります。噛むほどに旨味が出て、日本酒にもよく合います。
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鮮やかな色が目を引く赤巻(あかまき)も定番の具材です。断面は白と赤の渦巻き模様で、魚のすり身のやさしい味わいがだしとよく合い、見た目にも楽しい一品です。

もうひとつぜひ試していただきたいのがあかめし。おでんのだしを使って炊き上げたご飯で、ほんのり茶色く色づいた見た目が特徴です。だしの旨味がしっかりと染み込み、おでんと一緒に味わうと満足感のある一品になります。
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旅の途中でふと立ち寄り、温かな料理とともにひと息つける、そんな時間を楽しめる一軒です。

季節料理 おでん 黒百合(くろゆり)
住所
〒920-0858 石川県金沢市木ノ新保町1−1 金沢百番街「あんと」
営業時間
11:00~21:30 定休日なし
アクセス
JR他各線「金沢駅」直結
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山代温泉の夜に味わう、蟹とのどぐろ
割烹もりもと

金沢を後にして向かったのは、加賀の名湯として知られる山代温泉。温泉街の中ほどに店を構える 割烹もりもと は、日本海の魚介と加賀の旬の食材を使った料理をゆっくり楽しめる割烹です。

この日は、のどぐろとずわいがに(加能がに)を主役にしたおまかせ料理。
見た目も味も絶品の、石川県の冬を代表する二つの食材を堪能することができます。

最初に運ばれてきたのは、九谷焼の皿に美しく盛られた前菜の盛り合わせ。
蛸のやわらか煮や小さな季節の一品が並び、器の色彩と料理の彩りが重なって、まるで小さな季節の景色のようです。
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続いて登場したのは旬の魚の刺身。
その日の日本海で水揚げされた魚が丁寧に盛られ、身はしっとりとして透明感があります。口に含むとやさしい甘みが広がり、北陸の海の豊かさを感じさせます。
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料理の中には、加賀野菜のれんこんも登場します。
さくりとした食感の中にほのかな甘みがあり、素朴ながらも力強い味わいです。
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料理を楽しんでいると、途中で女将さんが大きな蟹を桶に入れて運んできてくれました。
地元で水揚げされた立派な 加能がに です。殻には加能がにの証である青いタグが付けられ、身の詰まり具合までしっかりと見せてくれます。こうして食材を目の前で見せてもらえるのも、この店ならではの魅力です。
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そして、料理に合わせた大将おすすめの石川の地酒。
地元の酒蔵の日本酒を少しずつ味わいながら料理を楽しむと、魚介の旨味がさらに引き立ちます。
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温泉街の静かな夜に、ゆっくりと料理を味わう時間。
気取らずに楽しめる雰囲気の中で、大将や女将さんとの会話も弾み、温泉地らしい温かな時間が流れていきます。
料理の余韻とともに、日本海の恵みと加賀の食文化の豊かさを、ゆっくりと味わうことができるひとときでした。

割烹もりもと
住所
〒922-0242 石川県加賀市 山代温泉幸町29
営業時間
17:00~23:00※昼は予約のみ営業、第2・第4月曜日定休
アクセス
電車:JR北陸本線加賀温泉駅より車で約10分
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富山
富山湾の冬の味覚、寒ブリを味わう
砺波の天然鮎と海鮮 魚安

庄川のほとりに店を構える 砺波の天然鮎と海鮮 魚安 は、富山の旬の幸を使った季節料理で知られる店です。夏には庄川の鮎を求めて多くの人が訪れますが、冬になると主役は富山湾の魚へと変わります。

この日いただいたのは、脂がたっぷりとのった寒ブリの料理。冬の富山湾を代表する魚を、さまざまな料理で味わいます。

最初に運ばれてきたのはブリハム。
軽く締められた身はしっとりとして、噛むほどに旨味が広がります。寒ブリの濃い味わいを、まず一口で感じることができる一品です。

続いて登場するのはブリの刺身。
厚く切られた身は艶やかな桃色で、光を受けて美しく輝いています。口に運ぶと脂の甘みがゆっくりと広がり、身はとろりとやわらか。冬の富山湾ならではの豊かな味わいです。
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次に運ばれてきたのはブリ寿し。
脂ののったブリと酢飯のさっぱりとした味が重なり、旨味がすっと引き立ちます。口の中でほどけるようなやわらかさがあり、寒ブリの魅力をあらためて感じる一貫です。
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そして、この料理の大きな楽しみがブリしゃぶ。
鍋に入っているのは、だしではなく日本酒だけ。
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薄く切ったブリを酒の鍋にさっとくぐらせると、身の表面がふわりと白くなり、日本酒の香りがほのかに立ち上ります。酒で火を通すことで魚の臭みが消え、身は驚くほどやわらかく、脂の甘みがより上品に感じられます。
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日本でも珍しいこの食べ方は、寒ブリの旨味をいちばん素直に引き出してくれる料理でした。

最後にいただくのは、鍋の酒で仕上げるしめの雑炊。
ブリの旨味が溶け込んだ鍋にご飯と卵を加えて作る雑炊は、とろりとやさしい味。湯気とともに立ちのぼる香りに、体の芯まで温まるような心地よさを感じます。
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ハム、刺身、寿司、しゃぶしゃぶ、そして雑炊。
同じ寒ブリでも、料理が変わるたびに味わいが少しずつ表情を変えていきます。

冬の富山を訪れたなら、ぜひ味わいたい寒ブリ。
富山湾の恵みを存分に楽しめる食の時間でした。

砺波の天然鮎と海鮮 魚安
住所
〒939-1315 富山県砺波市太田1088−1
営業時間
 11:00 ~14:00、17:00 ~ 20:00、定休日 毎週月曜日・第四火曜日
アクセス
北陸高速道 高岡砺波スマートICから6分、砺波ICから10分
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富山湾の恵みを握る、寿し処 佐々木

富山の夜は、市内の歓楽街にひっそりと佇む、隠れ家のようなお店、 寿し処 佐々木 へ。
富山湾で水揚げされた魚を中心に味わう「富山湾鮨」を楽しめる一軒です。

店内はカウンター席とテーブル席が少しの、落ち着いた雰囲気の店です。

カウンターに座ると、目の前にはその日の魚が美しく並べられたネタ箱が置かれています。
赤身や中とろの鮮やかな色合い、透き通る白身の輝き。
切り口はつややかで、見ているだけで魚の新鮮さが伝わってきます。
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大将はその箱から魚を静かに取り上げ、まな板の上で包丁を入れます。
無駄のない動きで身を整え、シャリをまとめ、ネタを重ねる。
指先で形を整えるその所作はとても穏やかで、見ているだけで心地よい時間が流れていきます。

最初に運ばれてきたのは、ガラスの器に盛られた前菜。
細く刻まれた野菜の上にやわらかな身が添えられ、さっぱりとした味わいが口に広がります。食事の始まりを軽やかに整えてくれる一品です。
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続いて、刺身の一皿。
赤身のまぐろと白身の魚が美しく盛られ、身にはつやがあり、包丁の入れ方の丁寧さが伝わってきます。
口に含むと、魚の甘みがすっと広がり、富山湾の豊かな海を感じさせます。
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やがて大将がカウンターの向こうで寿司を握り始めます。
握りはすでに煮きりや塩で味が整えられているため、醤油をつけずにそのまま口へ。

シャリには富山のブランド米 「富富富(ふふふ)」 とコシヒカリが使われ、ネタに合わせて酢も使い分けられています。
口に入れるとシャリがふわりとほどけ、魚の旨味と米の甘みが重なります。
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富山湾の魚の美味しさが、そのまま一貫の中に表れているようです。

カウンター越しに大将の仕事を眺めながら、ゆっくりと寿司を味わう時間。
富山湾の恵みを静かに堪能できる、印象深い夜でした。

寿し処 佐々木
住所
〒930-0083 富山県富山市総曲輪1-6-11kellyビル1F
営業時間
17:30〜、定休日 日曜
アクセス
富山地方鉄道路面電車 荒町駅から徒歩3分、JR富山駅から徒歩17分
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福井
門前で味わう、永平寺そば「井の上」

永平寺を訪れた日、参拝する前に門前で昼食をとりました。
立ち寄ったのは 永平寺 井の上。昭和初期から永平寺の門前で営業を続ける店です。

永平寺の門前では、修行僧や参拝者の食事として、そばが昔から親しまれてきました。
禅寺に入ろうとする僧侶を励ます料理として振る舞われてきたともいわれ、門前町の食文化の一つになっています。

店先では、職人がそばを打ち、包丁でそばを切る様子を見ることができます。
まな板の上で細く均一に切りそろえられていくそば。こうした光景を眺めていると、これから食べる一杯への期待が自然と高まります。
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まずいただいたのは 永平寺そばのおろしそば。
このそばの原料には、永平寺町で育てられた玄そばが使われています。
この地域で栽培されるそばは在来種に近く、収穫量も少ない貴重なそばとして知られています。

そばの実を甘皮ごと挽く挽きぐるみ粉を使い、つなぎを加えない 十割そば で打つのが特徴です。
完熟してから刈り取られたそばは香りが強く、噛むほどに甘みと香ばしさが広がります。
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やや太めでしっかりとした歯ごたえ。
口に運ぶと、そばの風味がふわりと広がり、素朴ながらも力強い味わいです。
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そこに合わせるのが、福井ならではの大根のおろし。
大根おろしと鰹節をのせ、だしを全部かけていただきます。

大根の爽やかな辛味が加わることで、そばの香りがいっそう引き立ち、さっぱりとした味わいになります。

もう一ついただいたのが、福井の名物 ソースカツ丼。
揚げたてのトンカツを特製ソースにくぐらせてご飯にのせる福井ならではのスタイルで、軽やかな甘みと酸味のあるソースが衣によく合います。
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香り豊かなそばと、福井らしい味のソースカツ丼。
その素朴な味わいが、参拝前のひとときをゆっくり整えてくれました。
永平寺門前 井の上
住所
〒910-1228 福井県吉田郡永平寺町門前
営業時間
8:30~17:00(11月~3月は16:30)、定休日なし
アクセス
・JR福井駅 からバスで「永平寺」バス停すぐ横
・えちぜん鉄道(勝山永平寺線)「永平寺口駅」下車、駅前からバスで「永平寺」バス停
・北陸自動車道「福井北IC」から15分
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三国湊の料亭で味わう越前がに
魚志楼

北陸の旅の締めくくりに訪れたのは、えちぜん鉄道三国駅の近くにある 魚志楼。
ここは、北前船の寄港地として栄えた三国湊の風情を今に残す一角にあります。港町として多くの商人や船主が行き交い、やがて花街としても賑わった歴史を持つ町です。

魚志楼の建物は明治初期に建てられた料理茶屋で、現在は国の登録有形文化財に指定されています。格子戸や木の廊下など、往時の料亭文化の面影が今も大切に残されています。
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この歴史ある空間でいただくのは、冬の福井を代表する味覚 越前がに。
福井県の港で水揚げされたずわいがにには黄色いタグが付けられ、その品質の高さを証明しています。

料理は、地元の食材を少しずつ味わえる前菜から始まります。
器も美しく、目でも楽しめる一皿です。
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続いて登場するのが かに刺し。
殻から外されたかにの脚は、透き通るような白さで、しっとりとした艶があります。口に入れると、身は驚くほど柔らかく、上品な甘みが静かに広がります。新鮮なかにだからこそ味わえる繊細な美味しさです。
噛むほどに甘みがゆっくりと広がり、冬の日本海の豊かさを感じさせてくれます。
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さらに、炭火で焼き上げる 焼きがに。
炭の上でゆっくりと火が入ることで、かにの身はふっくらと仕上がり、香ばしい香りが立ちのぼります。焼くことで甘みと旨味がさらに引き立ち、濃厚な味わいが広がります。
殻の中でふつふつと火が通り、湯気とともに立ちのぼる香りに思わず箸が伸びます。炭火の香りがほんのりと移り、冬の海の旨味をいっそう引き立てます。
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料理の途中には、福井の郷土料理 へしこ の炭火焼きも。
鯖を塩と糠で長く漬け込んだ保存食で、焼くことで香ばしさと旨味が際立ちます。塩気と発酵の深い味わいは、日本酒との相性が抜群です。
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料理を楽しみながら、店を切り盛りする おかみさんとの会話 も、この店ならではの楽しみです。
三国の町の歴史や料理の話を聞きながら過ごした時間は、旅の食事をいっそう印象深いものとして心に残りました。

料理茶屋 魚志楼
住所
〒913-0047福井県坂井市三国町神明3丁目7-23
営業時間
 11:30~14:00、18:00~21:00 
定休日 
火曜日、第2第4水曜日、​GW・お盆など連休は変更有り
アクセス
・えちぜん鉄道 三国芦原線「三国駅」から徒歩8分
・北陸自動車道「金津IC」から車で25分
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旅の記憶に残るもの
北陸の冬を巡る旅では、各地でさまざまな料理に出会いました。
金沢では金沢おでん、富山では寒ぶり、福井では永平寺そばといったソウルフードと、季節の料理。どれもその土地の海や風土が育んだ、印象深い味ばかりでした。

しかし、旅の記憶に残るのは料理の美味しさだけではありません。
店を切り盛りする大将やおかみさんとの何気ない会話も、旅の時間に温かな彩りを添えてくれます。
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料理のこと、町の歴史、地元の人が大切にしている食べ方。
こうした話を聞きながら食事をすることで、その土地の文化や暮らしが少しずつ見えてきます。
そして、この町にもう一度来たいと思うのも、この人にもう一度会いたいと思うからなのかもしれません。
北陸の冬の旅は、料理の豊かさと、人の温かさに出会う旅でした。

ー筆者ー
田谷良人(株式会社地方創生推進共創機構/JTA株式会社/北陸エリアマネージャー)
北陸を中心とした地域資源の発掘と海外発信を手がける。
観光・食・工芸など多様な分野を横断しながら、地域の魅力を海外に届けるプロジェクトに従事。
パーソナルのインスタグラムからも、北陸を発信中。

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